無形固定資産の評価:ソフトウェア

2014年08月27日 14:49

アプリやWEBサービスなどのソフトウェアを開発する際は事前に研究開発が行われると思いますが、どこまでが費用でどこからが資産なのか、また、会計上と税務上のソフトウェア評価はどう違うのかが複雑なため今回はそれらについてまとめてみました。

税務上と会計上のソフトウェア評価相違点

会計は、適正な期間損益計算・財務内容開示を目的としているため「将来の収益獲得又は費用削減が確実なもの」は資産計上できますが、それ以外は期間費用とされ固定資産の計上に関しては限定的です。将来の価値が明らかでないものを資産にするな。ということです。

一方税法課税公平・税収確保という目的があり、将来の収益獲得又は費用削減の効用で判断するのではなく「その取得に要した費用かどうか」で判断します。つまり、なんでもかんでも費用にするな。ということになります。

このようにそれぞれの目的が異なるため資産計上の基準及び評価方法も異なり、会計上は費用でも税務上は否認・加算するケースが多くあります。

会計上のソフトウェア

会計上のソフトウェアとはプログラム及びそれに付属するフローチャート操作マニュアル等を含めた範囲のものをいい、処理対象となるコンテンツは原則として別と考えます。
 
ソフトウェアを開発する際の研究開発費は、会計上その発生時において将来の収益を獲得できるか不明であり、その後研究開発計画が進行し将来の収益の獲得期待が高まったとしてもその獲得が確実であるとはいえないため、すべてその発生時に費用として処理します。
ではどこからソフトウェア(資産)に計上すべきかについては、制作目的別(受注制作・市場販売目的・自社利用目的)に設定されていますので以下で説明します。

会計上のソフトウェア区分

- 受注制作特定のユーザーに対し受注・制作、提供するもの)
  購入側は原則的に購入費用等を無形固定資産に計上します。
 
- 市場販売目的不特定多数のユーザー向けに開発・制作し、販売する目的のもの)
  費用と資産の判断基準は「最初に製品化された製品マスターの完成時点」となり、それ以前に発生した費用は研究開発費となります。
 
- 自社利用目的(その利用により将来の収益獲得又は費用削減が確実であるソフトウェア)
  将来の収益又は費用削減が確実と認められる状況になった時点以降の費用が資産計上されますが、その「時点」は社内稟議や役員会議事録、製作原価の管理台帳等の証憑により立証することとなりますので、会計上資産計上する際にはこれらの証憑が必要になります。
  また資産計上終了時点についても同様にソフトウェア作成完了報告書や最終テスト報告書等の証憑が必要となりますのでご留意下さい。

税務上のソフトウェア

資産計上と研究開発費

税務上は、ある資産を取得するために要した費用はすべて資産に計上することが原則であるため、ソフトウェアを制作する際に発生した研究開発費も資産計上すべきと考えますが、法基通7-3-15の3において「ソフトウェアの取得価額に算入しないことができる費用」が定められています。

税務上ソフトウェアの取得価額に算入しないことができる費用

  1. 自己の製作に係るソフトウェアの製作計画の変更等により、いわゆる仕損じがあったため不要となったことが明らかなものに係る費用の額
  2. 研究開発費の額(自社利用のソフトウェアについては、その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかなものに限る。)
  3. 製作等のために要した間接費、付随費用等で、その費用の額の合計額が少額(その製作減かのおおむね3%以内の金額)であるもの
 
上記2.において研究開発費は取得価額に算入しないことができると言いながら「自社利用のソフトウェアについては、その利用により将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかなものに限り研究開発費とする」とあり、税務上研究開発費として発生時の損金とするためには「将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らか」なことを疎明する必要があるため、実質的にはほぼ全額資産計上しなければばらない可能性が高いです。なお、自社利用以外の「複写して販売するための原本」等についてはこの限りでないといえます。(が。難しいと思われます。)

ソフトウェア(無形固定資産)の耐用年数

  1. 複写して販売するための原本・・・3年
  2. その他のもの・・・5年
  3. 開発研究用のもの・・・3年
 
開発研究用のものの耐用年数が税務上定められていることから「研究開発費も税務上ソフトウェアの取得原価に含まれますよ」という主張が感じられます。

ソフトウェアの取得価額

  1. 他から購入したソフトウェア・・・ソフトウェアの購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他ソフトウェア購入のために要した費用がある場合にはその費用の額を加算した金額+ソフトウェアを事業の様に供するために直接要した費用の額
  2. 自己が製作したソフトウェア・・・ソフトウェアの製作のために要した原材料費、労務費及び経費の額+ソフトウェアを事業の様に供するために直接要した費用の額
 
アプリ等の製作費はほぼほぼエンジニア・デザイナー等の人件費だと思いますが、その人件費は適正な原価計算に基づいてサービス・機能その他プロジェクトごとに按分し把握する必要がありますので、研究開発の段階からプロジェクトをできるだけ細かく管理し、どの作業に何時間かけたかを製作者に申告してもらい、月ごとに発生原価を集計していくことが大事です。
 
できるだけ細かくというのは、たとえば、顧客管理・メール配信・スケジュール管理をひとつのサービスとして1プロジェクトで原価計算してしまうと後でスケジュール管理の機能だけ廃止することになった場合等、その部分だけの原価が把握できていないため、その時点でその機能を減損(費用計上)することができず全て廃止するまで資産に計上したまま償却を続けることになってしまいますが、ひとつのサービスを3プロジェクトで原価計算していればスケジュール管理機能を廃止した時点で会計上も費用計上でき、税務上も損金として認められます。
 
少額なうちはいいですが、何年もサービスに手を加え続けているうちにソフトウェア計上額が多額になってしまうことがよくあります。過去に遡ってプロジェクトごとに按分するのは不可能ですので、スタート時からできるだけ細かく把握・集計しておきましょう!
 
※ 次回はソフトウェアリリース後のバグ取りや追加機能に係る費用の処理(修繕費or資本的支出)についてまとめたいと思います!